往来から見える処《ところ》に物を置くのは危険だということを話した。石田が長靴を脱ぐと、爺さんは長靴も一しょに持って先に立った。
 石田は爺さんに案内せられて家を見た。この土地の家は大小の違《ちがい》があるばかりで、どの家も皆同じ平面図に依《よ》って建てたように出来ている。門口を這入って左側が外壁《そとかべ》で、家は右の方へ長方形に延びている。その長方形が表側と裏側とに分れていて、裏側が勝手になっているのである。
 東京から来た石田の目には、先《ま》ず柱が鉄丹《べんがら》か何かで、代赭《たいしゃ》のような色に塗ってあるのが異様に感ぜられた。しかし不快だとも思わない。唯この家なんぞは建ててから余り年数を経たものではないらしいのに、何となく古い、時代のある家のように思われる。それでこんな家に住んでいたら、気が落ち付くだろうというような心持がした。
 表側は、玄関から次の間《ま》を経て、右に突き当たる西の詰《つめ》が一番好い座敷で、床の間が附いている。爺さんは「一寸《ちょっと》|御免なさい」と云って、勝手へ往《い》ったが、外套《がいとう》と靴とを置いて、座布団と煙草盆《たばこぼん》とを持って出
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