から」にくにくしい声である。これまでは末造がしらばっくれると、ついそうかと思ってしまったが、今度は余り強烈な直覚をして、その出来事を目前に見たように感じているので、末造の詞《ことば》を、なる程そうでもあろうかとは、どうしても思われなかった。
 末造はどうして逢ったか、話でもしたのかと、種々《いろいろ》に考えていながら、この場合に根掘り葉掘り問うのは不利だと思って、わざと迫窮しない。「別品だって。あんなのが別品と云うのかなあ。妙に顔の平べったいような女だが」
 お常は黙っていた。しかし憎い女の顔に難癖を附けた夫の詞に幾分か感情を融和させられた。
 この晩にも物を言い合って興奮した跡の夫婦の中直りがあった。しかしお常の心には、刺されたとげの抜けないような痛みが残っていた。

     拾伍《じゅうご》

 末造の家の空気は次第に沈んだ、重くろしい方へ傾いて来た。お常は折々只ぼうっとして空《くう》を見ていて、何事も手に附かぬことがある。そんな時には子供の世話も何も出来なくなって、子供が何か欲しいと云えば、すぐにあらあらしく叱る。叱って置いて気が附いて、子供にあやまったり、独りで泣いたりする。
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