じゃなかったのね」
「お前ばかしでなくて、誰に買って遣るものかい」
「いいえ。そうじゃないでしょう。あれは無縁坂の女のを買った序に、ふいと思い附いて、わたしのをも買って来たのでしょう」さっきから蝙蝠の話はしていても、こう具体的に云うと同時に、お常は悔やしさが込み上げて来るように感ずるのである。
「お手の筋」だとでも云いたい程適中したので、末造はぎくりとしたが、反対に呆《あき》れたような顔をして見せた。「べらぼうな話だなあ。何かい。その、お前に買った傘と同じ傘を、吉田さんの女が持っているとでも云うわけかい」
「それは同じのを買って遣ったのだから、同じのを持っているに極まっています」声が際立って鋭くなっている。
「なんの事だ。呆れたものだぜ。好い加減にしろい。なる程お前に横浜で買って遣った時は、サンプルで来たのだと云うことだったが、もう今頃は銀座辺でざらに売っているに違ない。芝居なんぞに好くある奴で、これがほんとの無実の罪と云うのだ。そして何かい。お前、あの吉田さんの女に、どこかで逢ったとでも云うのかい。好く分かったなあ」
「それは分かりますとも。ここいらで知らないものはないのです。別品だ
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