附かったって駄目だから、よそうと云うことだけは極めることが出来た。
そこへ末造が這入って来た。お常はわざとらしく取り上げた団扇の柄をいじって黙っている。
「おや。又変な様子をしているな。どうしたのだい」上さんがいつもする「お帰りなさい」と云う挨拶をしないでいても、別に腹は立てない。機嫌が好《い》いからである。
お常は黙っている。衝突を避けようとは思ったが、夫の帰ったのを見ると、悔やしさが込み上げて来て、まるで反抗せずにはいられそうになくなった。
「又何か下《く》だらない事を考えているな。よせよせ」上さんの肩の所に手を掛けて、二三遍ゆさぶって置いて、自分の床に据わった。
「わたしどうしようかと思っていますの。帰ろうと云ったって、帰る内は無し、子供もあるし」
「なんだと。どうしようかと思っている。どうもしなくたって好いじゃないか。天下は太平無事だ」
「それはあなたは太平楽を言っていられますでしょう。わたしさえどうにかなってしまえば好《い》いのだから」
「おかしいなあ。どうにかなるなんて。どうなるにも及ばない。そのままでいれば好《い》い」
「たんと茶にしてお出《いで》なさい。いてもいなく
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