出したに、彼が応ぜぬなら、それまでの事だと思って、わざと平気で烟草を呑《の》んでいる。
「あなた今までどこにいたんです」お上さんは突然頭を持ち上けて、末造を見た。奉公人を置くようになってから、次第に詞を上品にしたのだが、差向いになると、ぞんざいになる。ようよう「あなた」だけが維持せられている。
 末造は鋭い目で一目女房を見たが、なんとも云わない。何等《なにら》かの知識を女房が得たらしいとは認めても、その知識の範囲を測り知ることが出来ぬので、なんとも云うことが出来ない。末造は妄《みだ》りに語って、相手に材料を供給するような男ではない。
「もう何もかも分かっています」鋭い声である。そして末の方は泣声になり掛かっている。
「変な事を言うなあ。何が分かったのだい」さも意外な事に遭遇したと云うような調子で、声はいたわるように優しい。
「ひどいじゃありませんか。好くそんなにしらばっくれていられる事ね」夫の落ち着いているのが、却《かえ》って強い刺戟《しげき》のように利くので、上さんは声が切れ切れになって、湧《わ》いて来る涙を襦袢《じゅばん》の袖でふいている。
「困るなあ。まあ、なんだかそう云って見ね
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