て美しいものが人の心を和げる威力の下《もと》には、親だって、老人だって屈せずにはいられない。
 わざと黙っている爺いさんは、渋い顔をしている積であったが、不本意ながら、つい気色《けしき》を和げてしまった。お玉も新らしい境遇に身を委《ゆだ》ねた為めに、これまで小さい時から一日も別れていたことのない父親を、逢いたい逢いたいと思いながら、十日も見ずにいたのだから、話そうと思って来た事も、暫くは口に出すことが出来ずに、嬉しげに父親の顔を見ていた。
「もうお膳を下げまして宜《よろ》しゅうございましょうか」と、女中が勝手から顔を出して、尻上がりの早言《はやこと》に云った。馴染《なじみ》のないお玉には、なんと云ったか聞き取れない。髪を櫛巻《くしまき》にした小さい頭の下に太った顔の附いているのが、いかにも不釣合である。そしてその顔が不遠慮に、さも驚いたように、お玉を目守《まも》っている。
「早くお膳を下げて、お茶を入れ替えて来るのだ。あの棚にある青い分のお茶だ」爺いさんはこう云って、膳を前へ衝き出した。女中は膳を持って勝手へ這入った。
「あら。好《い》いお茶なんか戴かなくっても好《い》いのだから」

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