湯呑を下に置いて、上り口の方を見た。二枚折の葭簀屏風《よしずびょうぶ》にまだ姿の遮られているうちに、「お父っさん」と呼んだお玉の声が聞えた時は、すぐに起《た》って出迎えたいような気がしたのを、じっとこらえて据わっていた。そしてなんと云って遣ろうかと、心の内にせわしい思案をした。「好くお父っさんの事を忘れずにいたなあ」とでも云おうかと思ったが、そこへ急いで這入《はい》って来て、懐かしげに傍《そば》に来た娘を見ては、どうもそんな詞《ことば》は口に出されなくなって、自分で自分を不満足に思いながら、黙って娘の顔を見ていた。
 まあ、なんと云う美しい子だろう。不断から自慢に思って、貧しい中にも荒い事をさせずに、身綺麗にさせて置いた積ではあったが、十日ばかり見ずにいるうちに、まるで生れ替って来たようである。どんな忙《いそが》しい暮らしをしていても、本能のように、肌に垢の附くような事はしていなかった娘ではあるが、意識して体を磨くようになっているきのうきょうに比べて見れば、爺いさんの記憶にあるお玉の姿は、まだ璞《あらたま》のままであった。親が子を見ても、老人が若いものを見ても、美しいものは美しい。そし
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