きらめはこの女の最も多く経験している心的作用で、かれの精神はこの方角へなら、油をさした機関のように、滑《なめら》かに働く習慣になっている。

     拾《じゅう》

 或る日の晩の事であった。末造が来て箱火鉢の向うに据わった。始ての晩からお玉はいつも末造の這入《はい》って来るのを見ると、座布団を出して、箱火鉢の向うに敷く。末造はその上に胡坐《あぐら》を掻いて、烟草《たばこ》を飲みながら世間話をする。お玉は手持不沙汰なように、不断自分のいる所にいて、火鉢の縁《へり》を撫《な》でたり、火箸《ひばし》をいじったりしながら、恥かしげに、詞数《ことばかず》少く受答《うけこたえ》をしている。その様子が火鉢から離れて据わらせたら、身の置所に困りはすまいかと思われるようである。火鉢と云う胸壁《むなかべ》に拠《よ》って、僅かに敵に当っていると云っても好い位である。暫く話しているうちに、お玉はふと調子附いて長い話をする。それが大抵これまで父親と二人で暮していた、何年かの間に閲《けみ》して来た、小さい喜怒哀楽に過ぎない。末造はその話の内容を聴くよりは、籠《かご》に飼ってある鈴虫の鳴くのをでも聞くように、可
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