みながら、上野の山で鴉《からす》が騒ぎ出して、中島の弁天の森や、蓮《はす》の花の咲いた池の上に、次第に夕靄《ゆうもや》が漂って来るのを見ていた。爺いさんは難有《ありがた》い、結構だとは思っていた。しかしその時から、なんだか物足らぬような心持がし始めた。それは赤子の時から、自分一人の手で育てて、殆ど物を言わなくても、互に意志を通じ得られるようになっていたお玉、何事につけても優しくしてくれたお玉、外から帰って来れば待っていてくれたお玉がいぬからである。窓に据わっていて、池の景色を見る。往来の人を見る。今跳ねたのは大きな鯉であった。今通った西洋婦人の帽子には、鳥が一羽丸で附けてあった。その度毎に、「お玉あれを見い」と云いたい。それがいないのが物足らぬのである。
三日四日となった頃には、次第に気が苛々して来て、女中の傍へ来て何かするのが気に障る。もう何十年か奉公人を使ったことがないのに、原来《がんらい》優しい性分だから、小言は言わない。只女中のする事が一々自分の意志に合わぬので、不平でならない。起居《たちい》のおとなしい、何をしても物に柔《やわらか》に当るお玉と比べて見られるのだから、田舎か
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