》 はそれには第一要件になっていた。ところがそこへ親父が出て来るとなると、その晴がましさの性質がまるで変って来る。婆あさんの話に聞けば、親子共物堅い人間で、最初は妾奉公は厭だと云って、二人一しょになってことわったのを、婆あさんが或る日娘を外へ呼んで、もう段々稼がれなくなるお父っさんに楽がさせたくはないかと云って、いろいろに説き勧めて、とうとう合点させて、その上で親父に納得させたと云うことである。それを聞いた時は、そんな優しい、おとなしい娘を手に入れることが出来るのかと心中|窃《ひそ》かに喜んだのだが、それ程物堅い親子が揃《そろ》って来るとなると、松源での初対面はなんとなく壻が岳父《しゅうと》に見参《げんざん》すると云う風になりそうなので、その方角の変った晴がましさは、末造の熱した頭に一杓《いっしゃく》の冷水を浴せたのである。
しかし末造は飽くまで立派な実業家だと云う触込《ふれこみ》を実にしなくてはならぬと思っているので、先方へはおお様な処が見せたさに、とうとう二人の支度を引き受けた。それにはお玉を手に入れた上では、どうせ親父の身の上も棄てては置かれぬのだから、只|後《あと》ですること
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