な事には、好い娘だと人も云って下さるあの子だから、どうか堅気な人に遣りたいと思っても、わたしと云う親があるので、誰も貰おうと云ってくれぬ。それでも囲物や妾には、どんな事があっても出すまいと思っていたが、堅い檀那だと、お前さん方が仰《おっし》ゃるから、お玉も来年は二十《はたち》になるし、余り薹《とう》の立たないうちに、どうかして遣りたさに、とうとうわたしは折れ合ったのだ。そうした大事なお玉を上げるのだから、是非わたしが一しょに出て、檀那にお目に掛からなくてはならぬ」と云うのである。
 この話を持ち込まれた時、末造は自分の思わくの少し違って来たのを慊《あきたら》ず思った。それはお玉を松源へ連れて来て貰ったら、世話をする婆あさんをなるたけ早く帰してしまって、お玉と差向いになって楽もうと思ったあてがはずれそうになったからである。どうも父親が一しょに来るとなると、意外に晴がましい事になりそうである。末造自身も一種の晴がましい心持はしているが、それはこれまで抑え抑えて来た慾望の縛《いましめ》を解く第一歩を踏み出そうと云う、門出《かどで》のよろこびの意味で、〔te^te−a`−te^te〕《テタテト
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