sき違うことの出来ぬ横町に這入るのだから、危険はもう全く無いと云っても好い。石原は岡田の側《そば》を離れて、案内者のように前に立った。僕は今一度振り返って見たが、もう女の姿は見えなかった。
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僕と岡田とは、その晩石原の所に夜の更けるまでいた。雁を肴に酒を飲む石原の相伴をしたと云っても好い。岡田が洋行の事を噫気《おくび》にも出さぬので、僕は色々話したい事のあるのをこらえて、石原と岡田との間に交換せられる競漕《きょうそう》の経歴談などに耳を傾けていた。
上条へ帰った時は、僕は草臥《くたびれ》と酒の酔《えい》とのために、岡田と話すことも出来ずに、別れて寝た。翌日大学から帰って見ればもう岡田はいなかった。
一本の釘から大事件が生ずるように、青魚《さば》の煮肴が上条の夕食の饌《せん》に上《のぼ》ったために、岡田とお玉とは永遠に相見ることを得ずにしまった。そればかりでは無い。しかしそれより以上の事は雁と云う物語の範囲外にある。
僕は今この物語を書いてしまって、指を折って数えて見ると、もうその時から三十五年を経過している。物語の一半は、親しく岡田に交
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