B遠近の差は少い。又この場合に問う所でも無い。障礙物《しょうがいぶつ》は巡査派出所だが、これはどちらにも一箇所ずつある。そこで利害を比較すれば、只|振《にぎや》かな切通しを避けて、寂しい無縁坂を取ると云うことに帰着する。雁は岡田に、外套の下に入れて持たせ、跡の二人が左右に並んで、岡田の体を隠蔽《いんぺい》して行くが最良の策だと云うのである。
 岡田は苦笑しつつも雁を持った。どんなにして持って見ても、外套の裾《すそ》から下へ、羽が二三寸出る。その上外套の裾が不恰好に拡がって、岡田の姿は円錐形《えんすいけい》に見える。石原と僕とは、それを目立たせぬようにしなくてはならぬのである。

     弐拾肆《にじゅうし》

「さあ、こう云う風にして歩くのだ」と云って、石原と僕と二人で、岡田を中に挟んで歩き出した。三人で初から気に掛けているのは、無縁坂下の四辻にある交番である。そこを通り抜ける時の心得だと云って、石原が盛んな講釈をし出した。なんでも、僕の聴き取った所では、心が動いてはならぬ、動けば隙《すき》を生ずる、隙を生ずれば乗ぜられると云うような事であった。石原は虎が酔人を※[#「口+敢」、第3
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