ツも、僕は矢張《やはり》女の事を思っている。「でも石原のあれを取りに往くのが見たいよ」と、僕が暫く立ってから云う。こん度は岡田が「うん」と云って、何やら考えつつ歩いている。多分雁が気になっているのであろう。
 石段の下を南へ、弁天の方へ向いて歩く二人の心には、とにかく雁の死が暗い影を印《いん》していて、話がきれぎれになり勝であった。弁天の鳥居の前を通る時、岡田は強いて思想を他の方角に転ぜようとするらしく、「僕は君に話す事があるのだった」と言い出した。そして僕は全く思いも掛けぬ事を聞せられた。
 その話はこうである。岡田は今夜己の部屋へ来て話そうと思っていたが、丁度己にさそわれたので、一しょに外へ出た。出てからは、食事をする時話そうと思っていたが、それもどうやら駄目になりそうである。そこで歩きながら掻《か》い撮《つ》まんで話すことにする。岡田は卒業の期を待たずに洋行することに極《き》まって、もう外務省から旅行券を受け取り、大学へ退学届を出してしまった。それは東洋の風土病を研究しに来たドイツの Professor《プロフェッソル》 W.《ウエエ》 が、往復旅費四千マルクと、月給二百マルクを
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