Bこんな為事は昔取った杵柄《きねづか》で、梅なんぞが企て及ばぬ程迅速に、しかも周密に出来る筈のお玉が、きょうは子供がおもちゃを持って遊ぶより手ぬるい洗いようをしている。取り上げた皿一枚が五分間も手を離れない。そしてお玉の顔は活気のある淡紅色に赫《かがや》いて、目は空《くう》を見ている。
 そしてその頭の中には、極めて楽観的な写象が往来している。一体女は何事によらず決心するまでには気の毒な程迷って、とつおいつする癖に、既に決心したとなると、男のように左顧右眄《さこゆうべん》しないで、〔oe&ille`res〕《オヨイエエル》 を装われた馬のように、向うばかり見て猛進するものである。思慮のある男には疑懼《ぎく》を懐《いだ》かしむる程の障礙物《しょうがいぶつ》が前途に横《よこた》わっていても、女はそれを屑《もののくず》ともしない。それでどうかすると男の敢《あえ》てせぬ事を敢てして、おもいの外に成功することもある。お玉は岡田に接近しようとするのに、若し第三者がいて観察したら、もどかしさに堪えまいと思われる程、逡巡《しゅんじゅん》していたが、けさ末造が千葉へ立つと云って暇乞《いとまごい》に来てか
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