閨A留守には母親の据わっている所や、鬢《びん》の毛がいつも片頬に垂れ掛かっていて、肩から襷《たすき》を脱《はず》したことのめったに無い母親の姿などが、非常な速度を以《もっ》て入り替りつつ、小さい頭の中に影絵のように浮かんで来るのである。
 食事が済んだので、お梅は膳を下げた。片附けなくても好いとは云われても、洗う物だけは洗って置かなくてはと思って、小桶《こおけ》に湯を取って茶碗や皿をちゃらちゃら言わせていると、そこへお玉は紙に包んだ物を持って出て来た。「あら、失っ張り片附けているのね。それんばかりの物を洗うのはわけは無いから、わたしがするよ。お前髪はゆうべ結《い》ったのだからそれで好いわね。早く着物をお着替よ。そしてなんにもお土産が無いから、これを持ってお出」こう云って紙包をわたした。中には例の骨牌《かるた》のような恰好をした半円の青い札がはいっていたのである。
     ――――――――――――――――
 梅をせき立てて出して置いて、お玉は甲斐甲斐《かいがい》しく襷を掛け褄《つま》を端折《はしょ》って台所に出た。そしてさも面白い事をするように、梅が洗い掛けて置いた茶碗や皿を洗い始めた
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