ヲ[#「目+爭」、第3水準1−88−85]《みは》った。まだ明治十何年と云う頃には江戸の町家の習慣律が惰力を持っていたので、市中から市中へ奉公に上がっていても、藪入《やぶいり》の日の外には容易に内へは帰られぬことに極まっていた。
「あの今晩は檀那様がいらっしゃらないだろうと思うから、お前内へ往って泊って来たけりゃあ泊って来ても好いよ」お玉は重ねてこう云った。
「あの本当でございますの」梅は疑って問い返したのでは無い。過分の恩恵だと感じて、この詞《ことば》を発したのである。
「※[#「言+墟のつくり」、第4水準2−88−74]なんぞ言うものかね。わたしはそんな罪な事をして、お前をからかったり何かしやしないわ。御飯の跡は片附けなくっても好いから、すぐに往っても好いよ。そしてきょうはゆっくり遊んで、晩には泊ってお出。その代りあしたは早く帰るのだよ」
「はい」と云ってお梅は嬉しさに顔を真っ赤にしている。そして父が車夫をしているので、車の二三台並べてある入口の土間や、箪笥《たんす》と箱火鉢との間に、やっと座布団が一枚|布《し》かれる様になっていて、そこに為事《しごと》に出ない間は父親が据わってお
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