げた領の下に項《うなじ》から背へ掛けて三角形に見える白い肌、手を高く挙げているので、肘の上二三寸の所まで見えるふっくりした臂《ひじ》が、末造のためにはいつまでも厭《あ》きない見ものである。そこで自分が黙って待っていたら、お玉が無理に急ぐかも知れぬと思って、わざと気楽げにゆっくりした調子で話し出した。
「おい急ぐには及ばないよ。何も用があってこんなに早く出掛けて来たのではないのだ。実はこないだお前に聞かれて、今晩あたり来るように云って置いたが、ちょいと千葉へ往かなくてはならない事になったのだ。話が旨く運べば、あすのうちに帰って来られるのだが、どうかするとあさってになるかも知れない」
櫛をふいていたお玉は「あら」と云って振り返った。顔に不安らしい表情が見えた。
「おとなしくして待っているのだよ」と、笑談《じょうだん》らしく云って、末造は巻烟草入《まきたばこいれ》をしまった。そしてついと立って戸口へ出た。
「まあお茶も上げないうちに」と云いさして、投げるように櫛を櫛箱に入れたお玉が、見送りに起《た》って出た時には、末造はもう格子戸を開けていた。
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