tをバケツの中に吐いてこう云ったお玉の、少しのぼせたような笑顔が、末造の目にはこれまでになく美しく見えた。一体お玉は無縁坂に越して来てから、一日一日と美しくなるばかりである。最初は娘らしい可哀さが気に入っていたのだが、この頃はそれが一種の人を魅するような態度に変じて来た。末造はこの変化を見て、お玉に情愛が分かって来たのだ、自分が分からせて遣ったのだと思って、得意になっている。しかしこれは何事をも鋭く看破する末造の目が、笑止にも愛する女の精神状態を錯《あやま》り認めているのである。お玉は最初主人大事に奉公をする女であったのが、急劇な身の上の変化のために、煩悶《はんもん》して見たり省察《せいさつ》して見たりした挙句、横着と云っても好《い》いような自覚に到達して、世間の女が多くの男に触れた後《のち》に纔《わず》かに贏《か》ち得る冷静な心と同じような心になった。この心に翻弄《ほんろう》せられるのを、末造は愉快な刺戟《しげき》として感ずるのである。それにお玉は横着になると共に、次第に少しずつじだらくになる。末造はこのじだらくに情慾を煽《あお》られて、一層お玉に引き附けられるように感ずる。この一切
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