゚をした事しか無い岡田と親しく話をした為めに、自分の心持が、我ながら驚く程急劇に変化して来たのを感じた。女には欲しいとは思いつつも買おうとまでは思わぬ品物がある。そう云う時計だとか指環《ゆびわ》だとかが、硝子窓の裏に飾ってある店を、女はそこを通る度に覗《のぞ》いて行く。わざわざその店の前に往こうとまではしない。何か外の用事でそこの前を通り過ぎることになると、きっと覗いて見るのである。欲しいと云う望みと、それを買うことは所詮《しょせん》企て及ばぬと云う諦《あきら》めとが一つになって、或る痛切で無い、微《かす》かな、甘い哀傷的情緒が生じている。女はそれを味うことを楽みにしている。それとは違って、女が買おうと思う品物はその女に強烈な苦痛を感ぜさせる。女は落ち着いていられぬ程その品物に悩まされる。縦《たと》い幾日か待てば容易《たやす》く手に入《い》ると知っても、それを待つ余裕が無い。女は暑さをも寒さをも夜闇《よやみ》をも雨雪《うせつ》をも厭《いと》わずに、衝動的に思い立って、それを買いに往くことがある。万引なんと云うことをする女も、別に変った木で刻まれたものでは無い。只この欲しい物と買いたい物
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