vえば、泣言を言っている。酒の※[#「均のつくり」、第3水準1−14−75]《におい》が胸の悪い程するのである。
 お玉はこわくて泣き出したいのを我慢して、その頃通用していた骨牌《かるた》のような形の青い五十銭札を二枚、見ている前で出して紙に包んで、黙って男の手に渡した。男は存外造作なく満足して、「半助でも二枚ありやあ結構だ、姉《ね》えさん、お前さんは分りの好《い》い人だ、きっと出世しますよ」と云って、覚束ない足を踏み締めて帰った。
 こんな出来事があったので、お玉は心細くてならぬ所から、「隣を買う」と云うことをも覚えて、変った菜でも拵《こしら》えた時は、一人暮らしでいる右隣の裁縫のお師匠さんの所へ、梅に持たせて遣るようになった。
 師匠はお貞《てい》と云って、四十を越しているのに、まだどこやら若く見える所のある、色の白い女である。前田家の奥で、三十になるまで勤めて、夫を持ったが間もなく死なれてしまったと云う。詞遣が上品で、お家流の手を好く書く。お玉が手習がしたいと云った時、手本などを貸してくれた。
 或る日の朝お貞が裏口から、前日にお玉の遣った何やらの礼を言いに来た。暫く立話をしてい
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