故意にしたのでないことが明白に知れていた。そこで窓の格子を隔てた覚束《おぼつか》ない不言の交際が爰《ここ》に新しい 〔e'poque〕《エポック》 に入ったのを、この上もなく嬉しく思って、幾度《いくたび》も繰り返しては、その時の岡田の様子を想像に画《えが》いて見るのであった。
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 妾も檀那の家にいると、世間並の保護の下《もと》に立っているが、囲物には人の知らぬ苦労がある。お玉の内へも或る日|印絆纏《しるしばんてん》を裏返して着た三十前後の男が来て、下総《しもうさ》のもので国へ帰るのだが、足を傷めて歩かれぬから、合力《ごうりき》をしてくれと云った。十銭銀貨を紙に包んで、梅に持たせて出すと紙を明けて見て、「十銭ですかい」と云って、にやりと笑って、「おお方間違だろうから、聞いて見てくんねえ」と云いつつ投げ出した。
 梅が真っ赤になって、それを拾って這入る跡から、男は無遠慮に上がって来て、お玉の炭をついでいる箱火鉢の向うに据わった。なんだか色々な事を云うが、取り留めた話ではない。監獄にいた時どうだとか云うことを幾度《いくど》も云って、息張《いば》るかと
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