んだ。水兵は探索の手掛かりを得たやうに思つた。エドガア・アラン・ポオの小説にリユウ・マルグの二人殺《ににんころ》しと云ふのがあつて、その主人公は猩々である。さうして見れば軍艦の猿だつて窃盗をしないには限らない。丁度探偵が嫌疑者を監視するやうに、水兵は軍艦の猿を監視し始めた。
二三日立つて、水兵は石炭庫に天鵞絨《びろうど》の小さいエツヰのあるのを見出した。それが石炭の中に埋めてあつたのである。誰がこんな事をしたのだらう。どうも猿らしい。
水兵は忽ち工夫して、猿の腕首を掴んで、エツヰのあつた所へ連れて行かうとした。ところが石炭庫が近くなればなる程、猿が震え出した。丁度犬が自分の糞をした所へ連れて行かれるのを嫌ふやうに、軍艦の猿は石炭庫へ行く事を嫌つた。とう/\庫《くら》に来て、水兵がエツヰを見出したところを猿に指さして見せると、猿の黒い目に恐怖の色が現はれた。そして猿は祈祷をするやうに両手を合せた。
それから水兵は虚《から》のエツヰを出して猿に見せて、指に指輪を嵌めたり抜いたりする真似をして見せた。猿はそれを見てゐたが、暫くして意外な事をし始めた。猿は指の爪で不細工に石炭の中を掻き捜
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