にして兄の前に進み、諫めて云つた。人には気血動くの年がある。霊枢年忌の論は恰も我俗に所謂厄年と符してゐる。兄上は今年其時に当つてをられる。聞けば矢の倉の発会に酔《ゑひ》に乗じて争論せられたさうである。是は気血動くの致す所である。願はくは深く自ら※[#「にんべん+敬」、第3水準1−14−42]《いまし》めて過を弐《ふたゝ》びせられぬやうにと云つた。そして霊枢を開いて「陰陽二十五人篇」を読んだ。
 榛軒は弟の面を凝視すること良《やゝ》久しく、言はむと欲する所を知らざるものの如くであつた。それは柏軒にして此|言《こと》をなすことを予期せなんだからである。
 柏軒は幼時好学を以て称せられてゐた。然るに漸く長じて放縦になり、学業を荒棄し、父兄の戒飭《かいちよく》を受けて改めなかつた。榛軒が柏軒に諫めらるることを予期せなんだ所以である。
 既にして榛軒は思ふ所あるが如くにして云つた。弟、善く言つてくれた。己は言ふ所の事の是非を思つて、これを言ふことの不可なるには思ひ到らなかつた。その持つて来た霊枢を己に譲つてくれい。是は永く忠言を記して忘れぬためだ。己は又お前に此霊枢を贈つて報とする。
 言ひ畢《
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