たし、大坂便にさし出候。今度御書に而は、右本御恵賜被下候由扨々忝奉存候。いよいよ珍蔵可仕候。※[#「木+夜」、第3水準1−85−76]斎翁へも(隠居故翁と書たり)宜御礼奉願上候。御状も来候へども、此便急に而御返事期他日候。」
「今年御地寒熱之事被仰下、いづかたも同様也。先去冬甚あたたかに、三冬雪を見ず、夫《それ》にしては春寒ながく候ひき。土用中|以外《もつてのほか》ひややかに、初秋になりあつく候。秋はきのふたちぬときけど中々にあつさぞまさる麻のさごろもなどとつぶやき候。此比又冷気多く候処、今日より熱《あつさ》つよく候。いかなる気候に候や。生来不覚位の事也。先冬あたたかに雪なく、夏涼しくて雷なく、凌ぎよき年也。ことに豊年也。世の中も此通ならば旨き物也。諺に夏はあつく冬はさむきがよいと申せばさ様にも無之や。御地土用見廻之人冷気之見廻を申候よし、因而《よつて》憶出候。廿五六年前|一年《ひとゝせ》京にゐ候時、暑甚しく、重陽などことにあつし。今枝某といふ一医生礼にきたり、いつも端午が寒ければ、わたいれの上に帷子《かたびら》を著す、今日は帷子の上にわたいれを著して可然などと申候。」
「落合敬助太田
前へ
次へ
全1133ページ中310ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
森 鴎外 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング