ゆつ》の姉井出氏を娶つたが、井出氏は明和七年七月三日に歿したので、水越氏|民《たみ》を納《い》れて継室とした。休庵は後に蘭軒の外舅《しうと》になるのである。
信階《のぶしな》の家督相続は猶摂主の如きものであつた。先代|信栄《のぶなが》の子|信美《のぶよし》が長ずるに及んで、信階はこれに家を譲つた。此更迭は何年であつたか記載を闕いでゐるが、安永六年前であつたことは明である。何故と云ふに、此年には信階の長子蘭軒が生れてゐる。そしてその生れた家は今の本郷真砂町であつたと云ふ。本郷真砂町は信階が宗家を信美に譲つた後に、分家して住んだ処だからである。仮に宗家の更迭と分家の創立との年を其前年、即安永五年だとすると、当時隠居信政は六十五歳、信階は三十三歳であつた。
その十
伊沢信階が宗家を養父|亡《ばう》信栄の実子信美に譲つた年を、わたくしは仮に安永五年とした。此時信階の創立した分家は今の本郷真砂町桜木天神附近の地を居所とし、信階はこの新しい家の鼻祖となつたのである。
わたくしは例に依つて、信階|去後《きよご》の伊沢宗家のなりゆきを、此に插叙して置きたい。信階は宗家四世の主であつ
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