つご》が近うなったら、あの不二と書いてある大文字の懸物《かけもの》を枕もとにかけてくれ」と言いつけておいた。三月十七日に容態が次第に重くなって、忠利が「あの懸物をかけえ」と言った。長十郎はそれをかけた。忠利はそれを一目見て、しばらく瞑目《めいもく》していた。それから忠利が「足がだるい」と言った。長十郎は掻巻《かいまき》の裾《すそ》をしずかにまくって、忠利の足をさすりながら、忠利の顔をじっと見ると、忠利もじっと見返した。
「長十郎お願いがござりまする」
「なんじゃ」
「ご病気はいかにもご重体のようにはお見受け申しまするが、神仏の加護良薬の功験で、一日も早うご全快遊ばすようにと、祈願いたしておりまする。それでも万一と申すことがござりまする。もしものことがござりましたら、どうぞ長十郎|奴《め》にお供を仰せつけられますように」
こう言いながら長十郎は忠利の足をそっと持ち上げて、自分の額《ひたい》に押し当てて戴いた。目には涙が一ぱい浮かんでいた。
「それはいかんぞよ」こう言って忠利は今まで長十郎と顔を見合わせていたのに、半分寝返りをするように脇《わき》を向いた。
「どうぞそうおっしゃらずに」長
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