十郎はまた忠利の足を戴いた。
「いかんいかん」顔をそむけたままで言った。
列座の者の中から、「弱輩の身をもって推参じゃ、控えたらよかろう」と言ったものがある。長十郎は当年十七歳である。
「どうぞ」咽《のど》につかえたような声で言って、長十郎は三度目に戴いた足をいつまでも額に当てて放さずにいた。
「情の剛《こわ》い奴《やつ》じゃな」声はおこって叱《しか》るようであったが、忠利はこの詞《ことば》とともに二度うなずいた。
長十郎は「はっ」と言って、両手で忠利の足を抱《かか》えたまま、床の背後《うしろ》に俯伏《うつぶ》して、しばらく動かずにいた。そのとき長十郎の心のうちには、非常な難所を通って往き着かなくてはならぬ所へ往き着いたような、力の弛《ゆる》みと心の落着きとが満ちあふれて、そのほかのことは何も意識に上らず、備後畳《びんごたたみ》の上に涙のこぼれるのも知らなかった。
長十郎はまだ弱輩で何一つきわだった功績もなかったが、忠利は始終目をかけて側近《そばちか》く使っていた。酒が好きで、別人なら無礼のお咎《とが》めもありそうな失錯《しっさく》をしたことがあるのに、忠利は「あれは長十郎がした
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