のではない、酒がしたのじゃ」と言って笑っていた。それでその恩に報いなくてはならぬ、その過《あやま》ちを償《つぐの》わなくてはならぬと思い込んでいた長十郎は、忠利の病気が重《おも》ってからは、その報謝と賠償との道は殉死のほかないとかたく信ずるようになった。しかし細かにこの男の心中に立ち入ってみると、自分の発意で殉死しなくてはならぬという心持ちのかたわら、人が自分を殉死するはずのものだと思っているに違いないから、自分は殉死を余儀なくせられていると、人にすがって死の方向へ進んでいくような心持ちが、ほとんど同じ強さに存在していた。反面から言うと、もし自分が殉死せずにいたら、恐ろしい屈辱を受けるに違いないと心配していたのである。こういう弱みのある長十郎ではあるが、死を怖《おそ》れる念は微塵《みじん》もない。それだからどうぞ殿様に殉死を許して戴こうという願望《がんもう》は、何物の障礙《しょうがい》をもこうむらずにこの男の意志の全幅を領していたのである。
しばらくして長十郎は両手で持っている殿様の足に力がはいって少し踏み伸ばされるように感じた。これはまただるくおなりになったのだと思ったので、また最
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