張っているように、口を開《あ》いているので、その長い顔が殆《ほとん》ど二倍の長さに引き延ばされている。絶えず涎《よだれ》が垂れるので、畳んだ手拭で腮《あご》を拭いている。顔位の狭い面積の処で、一部を強く引っ張れば、全体の形が変って来る。醜くくはない顔の大きい目が、外眦《がいさい》を引き下げられて、異様に開《ひら》いて、物に驚いたように正面を凝視している。藤子が食い付きそうだと云ったのも無理は無い。
 附き添って来たお上さんは、目の縁《ふち》を赤くして、涙声で一度翁に訴えた通りを又花房に訴えた。
 お上さんの内には昨夜《ゆうべ》骨牌会《かるたかい》があった。息子さんは誰《たれ》やらと札の引張合いをして勝ったのが愉快だというので、大声に笑った拍子に、顎が両方一度に脱《はず》れた。それから大騒ぎになって、近所の医者に見て貰ったが、嵌《は》めてはくれなかった。このままで直らなかったらどうしようというので、息子よりはお上さんが心配して、とうとう寐《ね》られなかったというのである。
「どうだね」
 と、翁は微笑《ほほえ》みながら、若い学士の顔を見て云った。
「そうですね。診断は僕もお上さんに同意し
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