前の態度と余り変っていないようだ。その前に一人の芸者がいる。締った体の権衡《けんこう》が整っていて、顔も美しい。若し眼窩《がんか》の縁を際立たせたら、西洋の絵で見る Vesta のようになるだろう。初め膳を持って出て配った時から、僕の注意を惹《ひ》いた女である。傍輩《ほうばい》に小幾《こいく》さんと呼ばれたのまで、僕の耳に留まったのである。その小幾が頻りに児島に話し掛けている。児島は不精々々に返詞をしている。聞くともなしに、対話が僕の耳に這入る。
「あなた何が一番お好」
「橘飩《きんとん》が旨い」
真面目な返詞である。生年二十三歳の堂々たる美丈夫の返詞としては、不思議ではないか。今日の謝恩会に出る卒業生の中には、捜してもこんなのがいないだけは慥《たしか》である。頭が異様に冷《ひややか》になっていた僕は、間の悪いような可笑《おか》しいような心持がした。
「そう」
優しい声を残して小幾は座を立った。僕は一種の興味を以て、この出来事の成行を見ている。暫くして小幾は可なり大きな丼《どんぶり》を持って来て、児島の前に置いた。それは橘飩であった。
児島は宴会の終るまで、橘飩を食う。小幾はその
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