ヰタ・セクスアリス
森鴎外

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)金井|湛《しずか》君

|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)金井|湛《しずか》君

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、底本のページと行数)
(例)Mobius[#「o」にはウムラウトが付く]
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 金井|湛《しずか》君は哲学が職業である。
 哲学者という概念には、何か書物を書いているということが伴う。金井君は哲学が職業である癖に、なんにも書物を書いていない。文科大学を卒業するときには、外道《げどう》哲学と Sokrates 前の希臘《ギリシャ》哲学との比較的研究とかいう題で、余程へんなものを書いたそうだ。それからというものは、なんにも書かない。
 しかし職業であるから講義はする。講座は哲学史を受け持っていて、近世哲学史の講義をしている。学生の評判では、本を沢山書いている先生方の講義よりは、金井先生の講義の方が面白いということである。講義は直観的で、或物の上に強い光線を投げることがある。そういうときに、学生はいつまでも消えない印象を得
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