性欲を研究する材料にはなりにくい。譬《たと》えば Rhodos の kolossos や奈良の大仏が人体の形の研究には適せないようなものである。おれは何か書いて見ようと思っているのだが、前人の足跡を踏むような事はしたくない。丁度好いから、一つおれの性欲の歴史を書いて見ようかしらん。実はおれもまだ自分の性欲が、どう萌芽《ほうが》してどう発展したか、つくづく考えて見たことがない。一つ考えて書いて見ようかしらん。白い上に黒く、はっきり書いて見たら、自分が自分でわかるだろう。そうしたら或は自分の性欲的生活が normal だか anomalous だか分かるかも知れない。勿論書いて見ない内は、どんネものになるやら分らない。随《したがっ》て人に見せられるようなものになるやら、世に公にせられるようなものになるやら分らない。とにかく暇なときにぽつぽつ書いて見ようと、こんな風な事を思った。
そこへ独逸《ドイツ》から郵便物が届いた。いつも書籍を送ってくれる書肆《しょし》から届いたのである。その中に性欲的教育の問題を或会で研究した報告があった。性欲的というのは妥《おだやか》でない。Sexual は性的で
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