。柳原を両国の方へ歩いているうちに、古賀は蒲焼《かばやき》の行灯《あんどん》の出ている家の前で足を留めた。
「君は鰻《うなぎ》を食うか」
「食う」
 古賀は鰻屋へ這入った。大串を誂える。酒が出ると、ひとりで面白そうに飲んでいる。そのうち咽《のど》に痰《たん》がひっ掛かる。かっと云うと思うと、縁の外の小庭を囲んでいる竹垣を越して、痰が向うの路地に飛ぶ。僕はあっけに取られて見ている。鰻が出る。僕はお父様に連れられて鰻屋へ一度行って、鰻飯を食ったことしか無い。古賀がいくらだけ焼けと金で誂えるのに先ず驚いたのであったが、その食いようを見て更に驚いた。串を抜く。大きな切《きれ》を箸で折り曲げて一口に頬張る。僕は口には出さないが、面白い奴だと思って見ていたのである。
 その日は素直に寄宿舎に帰った。寝るとき、明日の朝は起してくれえ、頼むぞと云って、ぐうぐう寝てしまった。
 朝は四時頃から外があかるくなる。僕は六時に起きる。顔を洗って来て本を見ている。七時に賄《まかない》の拍子木が鳴る。古賀を起す。古賀は眠むそうに目を開《あ》く。
「何時だ」
「七時だ」
「まだ早い」
 古賀はくるりと寝返りをして、
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