に出ろと云う。鰐口なんぞは、長い間同じ部屋にいても、一しょに散歩に出ようと云ったことはない。とにかく附いて出て見ようと思って、承諾した。
 夏の初の気持の好い夕かたである。神田の通りを歩く。古本屋の前に来ると、僕は足を留《と》めて覗《のぞ》く。古賀は一しょに覗く。その頃は、日本人の詩集なんぞは一冊五銭位で買われたものだ。柳原の取附《とっつき》に広場がある。ここに大きな傘を開いて立てて、その下で十二三位な綺麗な女の子にかっぽれを踊らせている。僕は Victor Hugo の Notre Dame を読んだとき、Emeraude とかいう宝石のような名の附いた小娘の事を書いてあるのを見て、この女の子を思出して、あの傘の下でかっぽれを踊ったような奴だろうと思った。古賀はこう云った。
「何の子だか知らないが、非道い目に合わせているなあ」
「もっと非道いのは支那人だろう。赤子を四角な箱に入れて四角に太らせて見せ物にしたという話があるが、そんな事もし兼ねない」
「どうしてそんな話を知っている」
「虞初新誌にある」
「妙なものを読んでいるなあ。面白い小僧だ」
 こんな風に古賀は面白い小僧だを連発する
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