を有している。※[#「※」は「さんずいに日に工」、26−16]麻は僕がその第二の意義に対して、何等の想像をも画《えが》き得るものとは認めていない。女も僕をば空気の如くに取り扱っている。しかし僕には少しの不平も起らない。僕はこの女は嫌であった。それだから物なんぞを言って貰いたくはなかった。
※[#「※」は「さんずいに日に工」、27−2]麻が楊弓を引いて見ないかと云ったが、僕は嫌だと云った。
※[#「※」は「さんずいに日に工」、27−3]麻は間もなく楊弓店を出た。それから猿若町《さるわかちょう》を通って、橋場の渡《わたし》を渡って、向島のお邸に帰った。
同じ頃の事であった。家従達の仲間に、銀林と云う針医がいて、折々彼等の詰所に来て話していた。これはお上のお療治に来るので、お国ものではない。江戸児《えどっこ》である。家従は大抵三十代の男であるのに、この男は四十を越していた。僕は家従等に比べると、この男が余程賢いと思っていた。
或る日銀林は銀座の方へ往くから、連れて行って遣ろうと云った。その日には用を済ませてから、銀林が京橋の側の寄席《よせ》に這入《はい》った。
昼席《ひるせき》であ
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