せた。この人は某元老の壻さんである。下谷の大茂《だいしげ》という待合で遊ばれる。心安くなるには、やはりその待合へも行くが好いということになる。折々行く。芸者を四五人呼んで、馬鹿話をして帰る。その頃は物価が安くて、割前が三四円位であった。僕は古賀の勤めている役所の翻訳物を受け合ってしていたので、懐中が温《あたたか》であった。その頃は法律の翻訳なんぞは、一枚三円位取れたのである。五十円位の金はいつも持っていた。ところが、僕が一しょに行くと、望月君がきっと酒ばかり飲んで帰られる。古賀が云うには、「あれは君に遠慮しておられるのかも知れない。僕が遠慮のないようにして遣ろう」と云った。そして或晩古賀がお上《かみ》に話をした。僕がこの時古賀に抗抵しなかったのも、芸者はどんな事をするものかと思う Neugierde があったからだろう。
一月の末でもあったか。寒い晩であった。いつもの通《とおり》三人で、下谷芸者の若くて綺麗なのを集めて、下らない事をしゃべっている。そこへお上が這入って来る。望月君が妙な声をする。故意《わざ》とするのである。
「婆《ばば》あ」
「なんですよ。あなた、嫌に顔がてらてらして
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