ともありませんの」
「ふむ」
 暫く顔を見合せている。女がやはり笑いながら云う。
「あなた可笑しゅうございますわ」
「何が」
「こうしていては」
「そんなら腕角力《うでずもう》をしよう」
「すぐ負けてしまうわ」
「なに。己もあまり強くはない。女の腕というものは馬鹿にならないものだそうだ」
「あら。旨い事を仰ゃるのね」
「さあ来い」
 煎餅布団の上に肘《ひじ》を突いて、右の手を握り合った。女は力も何もありはしない。いくら力を入れて見ろと云ってもだめである。僕は何の力をも費さずに押え附けてしまった。
 障子の外から、古賀と三枝とが声を掛けた。僕は二人と一しょに帰った。これが僕の二度目の吉原|通《がよい》であった。そして最後の吉原通である。序《ついで》だから、ここに書き添えて置く。

      *

 二十一になった。
 洋行がいよいよ極まった。しかし辞令は貰わない。大学の都合で、夏の事になるだろうということである。
 いろいろな縁談で、お母様が頻《しきり》に気を揉《も》んでお出《いで》なさる。
 古賀が、後々の為めに好かろうと云うので、僕を某省の参事官の望月《もちづき》君という人に引き合
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