うちにあると見える。三枝は、「一寸失敬」と云うかと思えば、小さい四辻に担荷《かつぎに》を卸して、豆を煎《い》っている爺さんの処へ行って、弾豆《はじけまめ》を一袋買って袂《たもと》に入れる。それから少し歩くうちに、古賀と僕とを顧みて、「ここだ」と云って、ついと或店にはいる。馴染《なじみ》の家と見える。
 二階へ通る。三枝が、例の伸屈《のびかがみ》の敏捷《びんしょう》な男と、弾豆を撮《つま》んで食いながら話をする。暫くして僕は鼻を衝《つ》くような狭い部屋に案内せられる。ランプと烟草盆とが置いてある。煎餅布団《せんべいぶとん》が布《し》いてある。僕は坐布団がないから、為方なしにその煎餅布団の真中に胡坐《あぐら》をかく。紙巻烟草に火を附けて呑んでいる。裏の方の障子が開く。女が這入る。色の真蒼《まっさお》な、人の好さそうな年増である。笑いながら女が云う。
「お休なさらないの」
「己《おれ》は寝ない積だ」
「まあ」
「お前はひどく血色が悪いではないか。どうかしたのかい」
「ええ。胸膜炎で二三日前まで病院にいましたの」
「そうかい。それでいて、客の処へ出るのはつらかろうなあ」
「いいえ。もう心持は何
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