て四十ばかりの後家さんがいるのである。僕はふいとその家へ往く気になって、表口へ廻って駈け込んだ。
草履《ぞうり》を脱ぎ散らして、障子をがらりと開けて飛び込んで見ると、おばさんはどこかの知らない娘と一しょに本を開けて見ていた。娘は赤いものずくめの着物で、髪を島田に結《い》っている。僕は子供ながら、この娘は町の方のものだと思った。おばさんも娘も、ひどく驚いたように顔を上げて僕を見た。二人の顔は真赤であった。僕は子供ながら、二人の様子が当前《あたりまえ》でないのが分って、異様に感じた。見れば開けてある本には、綺麗に彩色がしてある。
「おば様。そりゃあ何の絵本かのう」
僕はつかつかと側へ往《い》った。娘は本を伏せて、おばさんの顔を見て笑った。表紙にも彩色がしてあって、見れば女の大きい顔が書いてあった。
おばさんは娘の伏せた本を引ったくって開けて、僕の前に出して、絵の中の何物かを指ざして、こう云った。
「しずさあ。あんたはこれを何と思いんさるかの」
娘は一層声を高くして笑った。僕は覗いて見たが、人物の姿勢が非常に複雑になっているので、どうもよく分らなかった。
「足じゃろうがの」
おばさ
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