うような風ではないか、若《も》しそうなら、その男とは余り交際しない方が好かろうと仰ゃった。お母様は黙ってお出なすった。僕は、三輪崎とは気象が合わないから、親しくする積ではないと云った。実際そう思っていたのである。
 四畳半の部屋に帰ってから、昨日の事を想って見る。あれが性欲の満足であったか。恋愛の成就はあんな事に到達するに過ぎないのであるか。馬鹿々々しいと思う。それと同時に僕は意外にも悔という程のものを感じない。良心の呵責《かしゃく》という程のものを覚えない。勿論あんな処へ行くのは、悪い事だと思う。あんな処へ行こうと預期して、自分の家の閾《しきい》を越えて出掛けることがあろうとは思わない。しかしあんな処へ行き当ったのは為方がないと思う。譬《たと》えて見れば、人と喧嘩をするのは悪い事だ。喧嘩をしようと志して、外へ出ることは無い。しかし外へ出ていて、喧嘩をしなければならないようになるかも知れない。それと同じ事だと思う。それから或る不安のようなものが心の底の方に潜んでいる。それは若しや悪い病気になりはすまいかということである。喧嘩をした跡でも、日が立ってから打身《うちみ》の痛み出すことがある
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