だ。
 八畳の間である。正面は床の間で、袋に入れた琴が立て掛けてある。黒塗に蒔絵《まきえ》のしてある衣桁《いこう》が縦に一間を為切《しき》って、その一方に床が取ってある。婆あさんは柔かに、しかも反抗の出来ないように、僕を横にならせてしまった。僕は白状する。番新の手腕はいかにも巧妙であった。しかしこれに反抗することは、絶待的不可能であったのではない。僕の抗抵《こうてい》力を麻痺《まひ》させたのは、慥《たしか》に僕の性欲であった。
 僕は霽波に構わずに、車を言い附けて帰った。小菅の内に帰って見れば、戸が締まって、内はひっそりしている。戸を叩くと、すぐにお母様が出て開けて下すった。
「大そう遅かったね」
「はい。非常に遅くなりました」
 お母様の顔には一種の表情がある。しかし何とも仰《おっし》ゃらない。僕にはその時のお母様の顔がいつまでも忘れられなかった。僕は只「お休なさい」と云って、自分の部屋に這入った。時計を見れば三時半であった。僕はそのまま床にもぐり込んでぐっすり寐た。
 翌日朝飯を食うとき、お父様が、三輪崎とかいう男は放縦な生活をしているので、酒を飲めば、飲み明かさねば面白くないとい
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