ず》かむとしつ。少女はつと立ちて「この部屋の暑さよ。はや学校の門もささるる頃なるべきに、雨も晴れたり。おん身とならば、おそろしきこともなし。共にスタルンベルヒへ往《ゆ》き玉はずや。」と側《そば》なる帽《ぼう》取りて戴《いただ》きつ。そのさま巨勢が共に行くべきを、つゆ疑はずと覚《おぼ》し。巨勢は唯《ただ》母に引かるる穉子《おさなご》の如く従ひゆきぬ。
門前にて馬車|雇《やと》ひて走らするに、ほどなく停車場に来ぬ。けふは日曜なれど、天気|悪《あ》しければにや、近郷《きんごう》よりかへる人も多からで、ここはいと静《しずか》なり。新聞の号外売る婦人あり。買ひて見れば、国王ベルヒの城に遷《うつ》りて、容体《ようだい》穏なれば、侍医グッデンも護衛を弛《ゆる》めさせきとなり。※[#「※」は「汽の中に小さい米」、第4水準2−79−6、58−3]車《きしゃ》中には湖水の畔《ほとり》にあつさ避くる人の、物買ひに府に出でし帰るさなるが多し。王の噂《うわさ》いと喧《かまびす》し。「まだホオヘンシュワンガウの城にゐたまひし時には似ず、心|鎮《しず》まりたるやうなり。ベルヒに遷さるる途中、ゼエスハウプトにて水求
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