、然《しか》るべき家に奉公せばやとおもひしが、身元|善《よ》からねば、ところの貴族などには使はれず。この学校の或る教師に、端《はし》なくも見出されて、雛形《モデル》勤めしが縁《えにし》になりて、遂に鑑札受くることとなりしが、われを名高きスタインバハが娘なりとは知る人なし。今は美術家の間に立ちまじりて、唯《ただ》面白くのみ日を暮せり。されどグスタアフ・フライタハはさすがそら言《ごと》いひしにあらず。美術家ほど世に行儀|悪《あ》しきものなければ、独立《ひとりた》ちて交《まじわ》るには、しばしも油断すべからず。寄らず、障《さわ》らぬやうにせばやとおもひて、計《はか》らず見玉《みたま》ふ如き不思議の癖者《くせもの》になりぬ。をりをりは我身、みづからも狂人にはあらずやと疑ふばかりなり。これにはレオニにて読みしふみも、少《すこ》し祟《たたり》をなすかとおもへど、もし然《さ》らば世に博士と呼ばるる人は、そもそもいかなる狂人ならむ。われを狂人と罵る美術家ら、おのれらが狂人ならぬを憂へこそすべきなれ。英雄豪傑、名匠大家となるには、多少の狂気なくて※[#「※」は「りっしんべん+匚+夾」、第3水準1−84−
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