云って、傘を傾けて、並んで歩き出した。
「そうかね。」
「いつも君の方が先きへ出ているじゃあないか。何か考え込んで歩いていたね。大作の趣向を立てていたのだろう。」
木村はこう云う事を聞く度に、くすぐられるような心持がする。それでも例の晴々とした顔をして黙っている。
「こないだ太陽を見たら、君の役所での秩序的生活と芸術的生活とは矛盾していて、到底調和が出来ないと云ってあったっけ。あれを見たかね。」
「見た。風俗を壊乱する芸術と官吏服務規則とは調和の出来ようがないと云うのだろう。」
「なるほど、風俗壊乱というような字があったね。僕はそうは取らなかった。芸術と官吏というだけに解したのだ。政治なんぞは先ず現状のままでは一時の物で、芸術は永遠の物だ。政治は一国の物で、芸術は人類の物だ。」小川は省内での饒舌家《じょうぜつか》で、木村はいつもうるさく思っているが、そんな素振《そぶり》はしないように努めている。先方は持病の起ったように、調子附いて来た。「しかし、君、ルウズウェルトの方々で遣《や》っている演説を読んでいるだろうね。あの先生が口で言っているように行けば、政治も一時だけの物ではない。一国ば
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