かりの物ではない。あれを一層高尚にすれば、政治が大芸術になるねえ。君なんぞの理想と一致するだろうと思うが、どうかねえ。」
 木村は馬鹿々々しいと思って、一寸《ちょっと》顔を蹙《しか》めたくなったのをこらえている。
 そのうち停留場に来た。場末の常で、朝出て晩に帰れば、丁度満員の車にばかり乗るようになるのである。二人は赤い柱の下に、傘を並べて立っていて、車を二台も遣り過して、やっとの事で乗った。
 二人共|弔皮《つりかわ》にぶら下がった。小川はまだしゃべり足りないらしい。
「君。僕の芸術観はどうだね。」
「僕はそんな事は考えない。」不精々々に木村が答えた。
「どう思って遣っているのだね。」
「どうも思わない。作りたいとき作る。まあ、食いたいとき食うようなものだろう。」「本能かね。」
「本能じゃあない。」
「なぜ。」
「意識して遣っている。」
「ふん」と云って、小川は変な顔をして、なんと思ったか、それきり電車を降りるまで黙っていた。
 小川に分かれて、木村は自分の部屋の前へ行って、帽子掛に帽子を掛けて、傘を立てて置いた。まだ帽子は二つ三つしか掛かっていなかった。
 戸は開け放して、竹簾《た
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