あそび
森鴎外

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)醒《さ》ました

|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)丁度|物干竿《ものほしざお》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、底本のページと行数)
(例)※[#「※」は「巾+廚」、第4水準2−12−1、115−3]
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 木村は官吏である。
 ある日いつもの通りに、午前六時に目を醒《さ》ました。夏の初めである。もう外は明るくなっているが、女中が遠慮してこの間《ま》だけは雨戸を開けずに置く。蚊※[#「※」は「巾+廚」、第4水準2−12−1、115−3]《かや》の外に小さく燃えているランプの光で、独寝《ひとりね》の閨《ねや》が寂しく見えている。
 器械的に手が枕《まくら》の側《そば》を探る。それは時計を捜すのである。逓信省で車掌に買って渡す時計だとかで、頗《すこぶ》る大きいニッケル時計なのである。針はいつもの通り、きちんと六時を指している。
「おい。戸を開けんか。」
 女中が手を拭《ふ》き拭き出て来て、雨戸を繰り開ける。
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