は、今度こそはなんとか処置したかった。
 ところで表面は、この頃、一家は至極静穏に推移していたといってよかった。勇の北満行きはひとまず秋になってからということになった。訓練所へ入る前、彼は工場をやめて、家の仕事を手伝っていたのだ。百姓はつらい、つらい……と零《こぼ》しながらも、由次には負けず、田の草も掻き、畑の草取りもした。
 お蔭で、植付が終ると同時に、大麦の調製から小麦の始末まで、器械を頼んで来て、一気にやってしまった。ただ、おせきを困らせたのは、勇の食事であった。東京の食事に馴れてしまった勇は、ぽそぽその麦飯や、屑米の団子、へな[#「へな」に傍点]餅など食べようとせず、痩せ細った身体がますます痩せて行くようなのだ。
 おせきは三俵だけ残してある合格米の一俵に手をつけ、いつか二俵目にも手をつけた。さすがに勇にだけ旨い飯を食べさせ、あとの連中には別のを、というような訳にもゆかず、ついそれが家族の常用になってしまった。
「出来秋までどうしたらいいであろうか。」
 そろそろそれが心配の種になって来ていた。月に二俵はどんなに節約しても食べてしまった。九月の半ばまで、まだ七俵はなければならな
前へ 次へ
全47ページ中42ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
犬田 卯 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング