どうにもなるものではなかった。それよりは、今は彼女は出来秋の心配に移っていた。昨年のような洪水でも来られると一家はますます悲境に沈むばかりであった。厄介な存在がまた一人殖える――いまやそれが確定的だったのだ。健康な彼女は悪阻に悩むようなことはまず無いと言ってよかったのであるが、それにしてもさすがに自分で自分の肉体が持てあまされた。一人前の仕事が出来ない、それほど歯がゆいことはなかったのである。彼女は浩平の動物性を憎悪した。「丁満なことは何一つ出来ねえくせ[#「くせ」に傍点]に。このでれ[#「でれ」に傍点]助親父。」
 浩平にとっては、そのことに関する限り、何とも反駁は出来なかった。実際、すでに七人もの子を産んで、今度で八人目、これからさきもその可能性は長かった。いったい、これでどうなるというのであろう。妻の肉体的負担もさることながら、自分たちのその後の負担も容易のことではなかった。
 暢気《のんき》な彼もそのことを考えぬではなかったが、口では「この不精阿女。」時にはそれ位のことは言った。が、一言の下に圧倒されてしまうのだった。
「畜生。」
 第一、世間体が恥しかった。出来ることなら彼女
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