場づとめよりは、まだ満州の方がよくはなかろうかという夢をすてきれないでいた。
「お前、なにかい、やっぱり満州さ行って見る気があるのかい」とおせきは、せき込んで訊ねた。
「とにかくどうなっか、先生が一度相談したいから、休日にかえって来ないかと言って手紙くれたからよ、それで俺、まア、とにかく、帰って来て見たんだ。」
「そうか、先生が……でも、あれだで、一度行ったら、はア、なかなか来れねえんだから、よっく、お父とも相談して、それから、決めるんなら決めなくては駄目だで。」
彼女は勇をそんな遠い寒い国にやるのがひどく気づかわれる様子だった。
午後、勇は久しぶりに白い米の飯を食って、それから青年学校の先生を訪ねて行った。
七
植付が終って、今後は田の草取りだった。黒々と成育し分蘖《ぶんけつ》しはじめた一つの稲株を見ると、浩平はとにかく得意の鼻をうごめかさずにはいられなかった。インチキ肥料でも腐れ肥料でも、利き目さえあればなア……などとつい妻に向って浴せかけたくなる衝動を、彼はじっと抑えるのに骨を折った。
おせきは肥料のことについては、もはや何も言わなかった。言ってみたところで
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